第31章 正しい彼氏への甘え方、甘やかし方

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「ビビったぞ、インフル、今年のはしんどいらしいからな」 保育園で先生をやっているから毎年、インフルとか他にもこの時期に流行る風邪関係には詳しいって笑ってる。 その横顔を見ながら、あんなに昼間しんどくて辛くて、二十歳だけどぶっちゃけ泣きたいくらいに心細かったのが、どんどん元気になっていく。 心だけじゃない。 この部屋丸ごと、岳がいてくれることで元気になっていく気がした。 音が聞こえて、人の動いている気配がして、温かく感じる空間、明るい部屋。 「すぐに良くなる」 薬飲んだのなら、きついのは今日一日だけだって。 大体、一日で熱は下がる。かなりの高熱だから、翌日もその余韻と体力なくなっているせいでフラつくだろうけどって。 「さっき……」 「ん?」 「俺、歩くのもしんどくてさ」 お茶しかねぇし。 喉乾くし、寒いし、暑いし。 だから差し入れをお願いした。そしたら、純が甘えるのなら友達じゃなくて。 「か、か、か……」 「彼氏に甘えろ、ってか?」 「う、うん」 急激に顔が熱くなっていく。 でも、これはインフルのせいじゃねぇ。 だって、チラッと伺ったら、岳も俺みたいに顔が熱そうだ。頬のところが赤くなっている。もう作り終えたのか? すげ、早い。 米を炊いてる時間がなかったから、うどんだけど、食いやすいように少し切ったぞって、どんぶりを運びながら顔を赤くして、照れている。 「食えるか? 食わせようか?」 「へ、平気だって」 おぼんなんてものはうちにはない。 布団の上で食べるにしても不安定で、でもまだちょっと指先に上手く力が入らない俺はこの丼を片手で持つのも一苦労だから、ベッドを出てテーブルに移動しようかと思ったのに。 「ほら、あーん」 「!」 「彼氏にくらい甘えとけ」 「!」 岳が彼氏、っていうことに身体の内側がインフルみたいなのじゃなくて、芯からポカポカしてくる。 うどんって、こんなに美味かったっけ? 
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