第1章 愛しい、ひげ

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「好きです……岳(たけ)先生の……こと」 言葉が溢れて、気がついたら時にはもう零れた後だった。 言うつもりなんて、これっぽっちもなかったんだ。 言えるわけねぇし、言っちまったら最後だから。 最後、になっちまうから。 「ありがとうな、勇人(ゆうと)」 ほら、最後になっちまった。 もう、酒なんて一生飲まねぇ。 俺の十五年間抱えていた初恋を木っ端微塵に砕きやがった。 言わないでいられたのに、岳先生が無精髭なんて生やして、ドキドキさせるから、そのドキドキにいつもなら蓋をしてしまっておくはずの言葉がポロリと胸から出てきて、速くなる鼓動に押し出されるように、言葉となって外に出ちまった。 最後になんてしたくなかったのに。
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