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白い指先でイグニッションキーを捻る。
キュルッ……ガフォンッ――!
真っ暗なガレージに、エンジンのアイドリング音が無機質に響き始めた。
――ドッドッドッドッとリズムを打つ。
ボクサーエンジン特有の、鼓動の様な音。
夜の十時。
暗闇のガレージ。
ドライバーズシートに納まる……ひとりの若い女。
「フッ……」
無意識に笑みが零れる。
女には少女のようなあどけなさが残っている。
すっきりとした顎のラインがルームミラーに冷たく写る。
ガレージのオートシャッターが静かな作動音を立てて徐々に上がる中、排気ガスに混じってオイルの焼ける匂いがツンと鼻腔を刺激した。
――いい匂い。
少女は深く息を吸い、おもむろにスロットルペダルを一度大きく煽った。
『ガフォオオォォンッッ――ッ!』
凄まじいエキゾーストノートが、ガレージの壁を震わせる。
「OK。……よし行こう」
暗い車内で一人呟くと、少女は重いクラッチペダルをグッと踏み込み、力を入れてシフトレバーを一速に捻じ込む。
そして静かにクラッチをミートさせると、闇夜にポッカリと口を開けたガレージから、銀色の車がヌウッと姿を現した。
巨大なリアウイングが猛々しい――
その車、シルバーのインプレッサWRX。
駆るのは髪の長い――美しい少女。
向かうは深夜のパーキング。
そう――全てが始まる、峠の山頂にある、あのレストランが併設されたパーキングだ。
***
(タイトルコール)
高校生ラリードライバー育成ストーリー
『フルスロットル!』
はっじまっるよーっ! By髪の長い少女
***
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