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光と影。生と死。全ては表と裏。裏は表。
正義と悪、仁義と裏切り。入れ代わり立ち代わりくるくるめぐっていく。
《PM21:00》
窓から隣のビルのあかりが入り、不精ひげに痩けた頬の男の疲れた顔を不気味に照らしていた。短く刈り込まれた金髪頭。不健康な目の下のクマ。薄汚れて黒ずんだ白いシャツにぶかぶかのデニムジーンズ。
暗い部屋の中で“鉄男(テツオ)”はがっくりと床に膝と手をついた。からだを震わせ、腹の底から低い声でうなる。
「……おれたちゃもう終わりだ。あああ……華(ハナ)ぁ、おれたちも殺されるよ……」
事務所はすっかり荒らされていた。全ての引き出しはひっくり返され、棚はなぎ倒されていた。
華と呼ばれたうつくしい女は身体のラインをぴったりと強調するような服を身につけていた。ボトムはぴったりと張り付くようなタイトスカート。赤みがかった髪はアップにまとめてある。唇のつややかな赤はいささか派手ではあったが、彼女の派手な顔立ちと白い肌でよく映えていた。
高めの黒いハイヒールのつま先で部屋にまき散らされていた邪魔な書類をどかせて、鉄男の腕を引いた。
「縁起でもないこと言わないでよ。大丈夫。あなたは死なないわ。わたしが守るもの」
有名な台詞を真似て見せた華の手を乱暴に振り払い、鉄男は事務所の最奥を指さし絶叫した。
「ッ冗談言ってる場合かよ! あの死体、見えてんだろ! 死体! 死体だよ。死体死体死体死体!」
「連呼しないでよ。落ち着きなさい」
鉄男が指さす先、1番最奥の社長椅子と呼ばれるような黒の革張りの椅子。その上には1人の男が浅めに腰かけて、じっとしていた。周囲は血だまり。
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