最終話

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ひんやりした空気 荘厳な佇まいの教会 柔らかな光を通すステンドグラス 厳粛な雰囲気の中 扉の開く音がした。 皆が振り返る。 背中から外の光を背負った彼女は 溜め息が溢れるほど美しかった。 マリアベールを纏い少し緊張気味に俯いた彼女は ゆっくりと新郎へ歩み寄り 視線を上げて彼と目を合わせると 花が開くように微笑んだ。 不覚にも目頭が熱くなる。 一人で立って生きていますみたいだったのに あんな風に誰かに自分を委ねる事が出来るようになった。 この気持ちはどの立場から湧いてくるものなのだろう。 まぁ、そんなものはどうでもいい。 彼女が幸せならば。 それを心から祝福できる。 式の後外に出ると庭の緑と柔らかな日差しで 目の前が明るくなる。 「仁さん」 羽山社長に呼び止められた。 「羽山社長、本日はおめでとうございます」 「ありがとうございます」 「絵になる二人で、満たされた気持ちになりました」 「私もです、あんな風に理央が笑うのを大人になってから見たのは初めてです」 羽山社長と話していると「初見」と呼ばれ振り向いた。 木崎がこちらへゆっくりと歩いてくる。 「麗しいお姿で」 「やめてよ、恥ずかしい」 「いや、本当に、よく似合ってる」 「ありがとう」 肩をすくめるように微笑んだ。 「本来ならお仕事の関係者をお呼びしないといけないのに、ありがとうございます」 木崎が羽山社長へ頭を下げる。 「いいんですよ」 「お父さん、ちょっといい?」 羽山の妹に呼ばれ羽山社長は会釈をして離れた。 「身内だけの結婚式を提案してくださったの」 「へえ、木崎が晒されるの苦手だって分かってるから?」 「そうなんだろうね」 眉を下げて申し訳ない顔をする。 「いやぁ、でも本当よかったよ 今日の日を迎えた事も今日の式も」 「……色々初見にはお世話になって」 「別に大した事は」 「本当に」 光にあたって木崎の目がいつもより茶色く見える。 「今後もお世話になります」 「こちらこそ、色々よろしく」 お互い小さく頭を下げた。
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