1:片田舎の豪邸にて

2/16
41人が本棚に入れています
本棚に追加
/143ページ
 北の中枢都市カルナヴァルから馬車に揺られること数時間。  距離にすれば首都ジュリスよりも近いが、交通機関が未発達の地域は道も荒れていて険しい。都市の喧騒から離れたその村は、名をエルドラという。  歴史を紐解くと、神聖帝国建国史にも出てくる戦場のひとつだ。  魔女と騎士団の激戦、たくさんの血と鉄が混ざりあった因果の地。いったいどれほどの被害があったのかは、それは個人の想像に任せるしかない。神聖帝国建国史をそもそもお伽話と言って切り捨てる人間が増えているこのご時世では。  もっとも、現代のエルドラに戦場としての面影は微塵も残っていない。  焦土は豊かな緑地へと姿を変え、広大なブドウ畑が広がる。帝国でも有名なワインの生産地としてその名は知られている。  誰も、ここを激戦地としては認識していない。  そんなのどかな片田舎、エルドラに新たに足を踏み入れるものがある。黒装束の女に白銀の団服の男。コントラストからも正反対な二人だ。
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!