斬首/

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 俺の産まれ堕ちた国。この日本国には『一寸先は闇』という言葉がある。これから先のことがどうなるのかまったく予測できないことの喩えとして使用される諺(ことわざ)であるが、この言葉も産まれ堕ちた国や文化によって変化する。  例えば海を越え遠く離れた英国(ライミー)にある霧の田舎町(ロンドン)などではその気候から『The fog is too thick to see an inch ahead.(深い霧によって前が見えない)』などが同意義として用いられるのである。  そして現在、俺の眼前に広がるこの光景を言葉で言い表すのであれば、そちらの方が適しているといえる。  あれれ? おかしいな。  ここは日本の筈なのに。  そもそも霧というのは暖かく湿った大気が何らかの理由で急激に冷やされることで発現する気象現象のことだ。しかしながら肌に感じる体感気温にさほど大きな変化はない。  ああ、つまりが、この濃霧は気象現象により偶発的に生じた事象ではなく。何者かの悪意によって計画的、または恣意的に発現させられた事象であると推測する。  季節は夏。  時間は正午を少し過ぎた所。  先ほどまで頭上で燦燦と輝いていた陽光までもがその姿を隠し、周囲を覆う濃霧によって俺たち二人はあっという間に外界から完全に隔離されてしまう形となった。
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