第1章

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「彼なら今日は二時までよ」 小雪のちらつく中、妹が問う前に先回りして二本指を立てた。 「日曜は八時まででしょ?」 妹はピンクのハート型の箱に赤いリボンを結んだプレゼントを抱き締めたまま訝しげな青い目を向ける。 「店長が急病でね、彼が代わりに遅くまで残ることになったの」 少なくとも、これは嘘じゃない。 「それじゃ……」 白い息を吐いて言い掛けた妹を制す。 「今日はもう帰りましょ」 返事を待たずに階段を降り出した。 ドカ、ドカ、といかにも無骨な音がする。 別にいいんだ。 私は男女(おとこおんな)なんだから。 柔らかく長い金髪に碧眼の可愛い妹とは似ても似つかない、硬いショートの黒髪、黒い目に肌まで浅黒い姉貴なんだから。 「私、待ってる」 真綿さながら甘い声に振り向いて睨み付ける。 「帰るの」 先ほど彼に奪われたばかりの唇を拭うと、涙が零れ落ちた。(了)
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