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バレンタインだホワイトデーだとうんざりするのは毎年のこと。
仕事は一人でするものじゃないから、職場の人間関係にはこれでも気を遣っている。
女性たちだって、現代日本のおかしな習慣をバカらしく思いながらもチョコを買いに行っているのだろう。
それを思えば真に受けて拒絶するのも大人げない。
「お、さすが。今年も大漁ですねえ」
背後から掛けられたハスキーボイスに、来たなと思う。
「おまえ、これ全部食べたら、確実にニキビができるぞ?」
色白のキメの細かい肌を見ながら言ってやった。
「大丈夫。チョコでニキビができたことないから」
そう言いながら差し出された手に、大量のチョコを入れた紙袋を渡した。
羽鳥 レナ。総務課の同期。我が社の顔とも言うべき受付嬢だ。
こいつはバレンタインデーになると、終業後の俺の席にやって来る。
俺がもらったチョコを根こそぎ持ち帰って食べるためだ。
「彼女からのは? 紛れ込んでない?」
そこらへんは一応気にしてくれるらしい。
「あいつは今晩くれるんだろう」
付き合って二か月の紗綾の顔を思い浮かべた。
「ならば、良し」
それだけ言って立ち去ろうとしたレナを「おい」と呼び止めた。
「おまえ、まさか藤田課長にその中の一つを渡したりしないよな?」
「一番高そうな奴をね」
レナはニヤッと笑ってメガネをクイッと上げると、ヒールの音を響かせながら去って行った。
その後ろ姿を眺めながら、相変わらずいいケツしてやがると思ったことは本人には内緒だ。
レナは藤田課長のモノだから。
あんなことを言って、レナも藤田課長にあげるチョコを一生懸命選んで買ったに違いない。
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