姉 祥子の物語 《今宵、ただ一夜》

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貴方はそうおっしゃるけれど、 在学中に私を見初めて 求婚された殿方たちを、 私が何人振ったかご存知? 片手では収まらぬのですよ。 そんな手前味噌を申したところで、 貴方はきっと一笑に伏されるだけで まともには取り合っては下さらぬでしょう。 憎い、憎いかた。 こうして何も手に入れられぬまま、 伯爵の父がとうとう どこぞの公爵家との縁談話を まとめておしまいになったのよ。 心に愛しい面影を思いながら、 違うひとに抱かれろというのですか。 嫌です、そんなのは嫌――。 絶望の夜の月はおぼろで、 我知らずふらふらと行きつきますのは 今宵あの方のお泊りになる仮の宿り。
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