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「いやー、今日は凜のハイスペック彼氏も見れたし満足だなー」
「ハイスペック彼氏?」
「あ・・宮瀬さん気にしないでください。」
暫くして、グラスに残ってた少しのカクテルを飲み干した怜が背筋を伸ばすように腕を上に上げた。
そして気になる単語に反応した宮瀬を宥め、時計を見ると23時を過ぎていた。
「凜と違って私の家遠いから、そろそろ帰るね」
「えー帰っちゃうの?」
「帰っちゃうのじゃないでしょ、もう。本当に可愛いわね」
「だって・・」
怜の家はここから5駅分離れていた。
時間的には40分は掛かるだろう。
なんだか無性に惜しくなる気持ちも、どうにもできない事象に掴んだ怜の腕を泣く泣く離す。
「お会計は・・」
「あ、いいよいいよ私払っとく!次会った時でいいから」
「でも、悪いよ?」
「いいの、連絡無視しちゃったお詫びだから」
「そしたら今度駅前の新しくできたカフェ行こう?」
取り出した財布と仕舞ってと言わんばかりに怜を言いくるめ、多少申し訳なさそうな顔をした怜に笑って見せた。
ずるずる引き摺っても終わらない会話にすんなり終止符を打つと、怜が次会った時の“次”を曖昧に取り付けて上着を羽織る。
「じゃあねー、凜とハイスペック彼氏さん」
「怜また連絡するね!」
そうして黒いコートを軽く羽織った怜が掌をひらひらさせながらドアーベルを鳴らした。
ドア付近まで駆け寄った私は名残惜しそうにその背中が、少し行った明るい道まで出るのを見送る。
そして怜の影が霞んだあたりでドアを閉めた。
「なぁ、ハイスペック彼氏って何のことだ?」
「いや・・気にしなくていいと思いますよ」
「どんな風に話したんだよ俺の事」
「面白い方ですよね怜さん」
その一部始終は聞いていたマスターがクスクス笑う。
釣られて笑った私の横で宮瀬は少し怪訝な顔でお酒を煽った。
「まさか、初対面で試されるだなんて思ってなかったよ」
「やっぱ気づいてたんですね」
「類は友を呼ぶってこの事かー?」
「私より怖いですよ、怜は。言葉では勝てませんね」
そこまで言うと、宮瀬もマスターも納得したかのように頷いた。
その中で幸せに浸るように大きく深呼吸をして目を閉じながらカクテルを口に含んだ。
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