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リビングのソファに腰を下ろす。
身体がとても重く感じる。
余命を告げられたにしては最近調子が良くて、ほんとは疑っていた。
治ったりするんじゃないかって。
心のどこかで期待していた。
現実を見なさいと誰かが囁いた気がした。
心の半分くらいは冷静に病気のことを理解しているけど、まだ半分は信じられない気持ちがあって、もがいている感じ。
学校行ったら、なんか俺弱くなりそう。
1日だけしか行っていないけど、そんな気がした。
「できたぞー。」
そう言って兄貴がカレーを運んできた。
手元のお皿からは美味しそうな湯気が出ている。
「ありがとう。」
感謝を素直に言葉にしてみたら、兄貴はびっくりしてこちらを見た。
「お、おう。
やけに素直じゃん。
お前らしくねぇなぁ。」
「そんなに言わなくても…」
さっと受け流してくれればいいのに、そんな反応されるとこっちも反応に困る。
恥ずかしくなって、野菜多めのカレーに手を付けた。
「そっか。学校楽しかったのか?」
「え?」
突然言われて、カレーに向けていた視線を前に移す。
何の話でそうなったっけ?
「お前が妙に素直になったり、よく喋ったりする時って何かいい事があった時だろ。
何年お前のこと見てると思ってるんだ。
てかお前は分かりやす過ぎるし。」
「あ。そうなんだ…」
俺ってそんなに顔に出るのかな。
学校でも反応がどうこうとか言われてたし。
スプーンに視線を戻す。
器用にカレーとご飯が1:1になるように乗せながら言った。
「学校、懐かしかった。」
「そっか。」
「あと、友達できた。」
「お、早いね。やるじゃん。」
「うん。」
「よかった。楽しそうで。
無理だけはするなよ。
辛くなったら、俺でも担任でも頼れよ。」
何回も、何回も心配する。
分かってる。分かってるから。
「大丈夫だよ。」
いつの間にか俺も口癖になってしまった都合のいい言葉。
「これ、美味しい。」
空気に耐えられなくなって話題を変えた。
「そう。よかった。」
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