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「兄(あん)ちゃんよ、色々と世話になったな」
「い、いえ、お世話だなんて……」
そう、携帯電話を貸してあげただけや……。
「オレの事は構わんで、もう帰んな」
「えっ、でも、傷が ――」
「このオレが大丈夫ってんだから、大丈夫なんだよっ。
四の五の抜かしやがるとここで犯すぞ。さっさと失せろ」
「は、はいっっ!!」
倫太朗は脱兎の如く一目散に逃げ出した。
*** ***
公園から数分、全力疾走してきた所で、
倫太朗はひとまず足を止め、息を整えながら公園の方を
振り返った。
あの人は、誰か助けを呼んだみたいだけど、
すぐには来られないようだった。
あのナイフの形状から推測するに、かなりの深手
だろうし。
あの出血量じゃ自力での移動は不可能だ。
もし喧嘩の相手 ―― あのナイフを刺した人が
戻ってきたらどうする気なんだろう……。
あの男が死のうが生きようが、赤の他人の倫太朗には
全く関係のない事だったが。
医者としての使命感が倫太朗の心を揺すぶる。
―― ボクは医者だ。
そのボクが人の命を蔑ろにしてどうするっ!
倫太朗は再び全力疾走で公園へ戻った。
男は、少し自分で移動を試みたらしく、
「ったく、なんて無茶な人なんだ」
滑り台の支柱の所からやや離れた場所で
倒れて気を失っていた。
(でもどうしよう、この人救急車をよぶのはかなり
嫌そうだったし。となると、病院もNGだろう。
あぁもうっ! こんな時に出来る事はただひとつ。
ビビるな、倫太朗)
自分で自分を叱咤しながら倫太朗は病院の方へ
駆け出した。
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