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今夜は満月で空には満天の星が広がっており、
街灯の少ないこの公園でも比較的すっきり周囲を
見渡す事が出来た。
問題のソレは ――
滑り台の支柱に背を預ける恰好で座っていた。
……ホームレスか?
ただ、座っているだけなら倫太朗も目を止める事など
なかったのだが。
その男はこの寒空の下、薄手のシャツ1枚+スウェット
パンツという軽装でしかも、腹部は鮮血で真っ赤に
染まっていて、ナイフが患部に突き刺さったまま
だったのだ。
(げっ、まさか、死んでる……?)
よくよく注意して見れば、男は微かに浅く短い呼吸を
繰り返している。
死んではいないようだ。
でも、それは”まだ、死んでいない”というだけで、
こんな寒空の下へこのまま放置しておけば、
間違いなく凍死か出血多量で死ぬだろう。
あれこれ躊躇っている余裕はない。
倫太朗はその男の元へ駆け寄った。
「あのぉ。もしもし? もしも~し! 聞こえますかぁ?」
「チッ ―― るっせぇなぁ。耳元で喚くな。耳の遠い
爺さんじゃねぇんだから聞こえてるよ」
男は傷のせいで苦し気ではあるが、意識はしっかり
していた。
「あ、良かったぁ。では、救急車呼びますね」
「あ、いや。それは遠慮する」
「えっ、でも、ナイフ突き刺さったままなんですよ」
「ハハハ――こんなもん、ちょちょいと唾でも付けときゃ
じき治るって」
「はぁっ?? それは無理でしょ」
「それより兄(あん)ちゃん、あんた、携帯持ってたら
ちょいと貸してくれねぇか? オレのはさっきの乱闘で
お釈迦になっちまってよー」
と、男が残念そうな視線を向けた先には、
見るも無残に破壊された携帯電話の残骸が……。
「え、ええ、どうぞ」
(ひぇ~っ、一体どうやったらあそこまで滅茶苦茶に
破壊出来るんだぁ?)
男は倫太朗から借り受けた携帯電話で何処かへ電話を
かけた。
が、あいにく先方は何かの都合ですぐには、迎えに
来られないようだった。
チッっと舌打ちをして、不機嫌さも露わに倫太朗へ
携帯電話を突っ返してきた男に、今更ながら倫太朗は
怯える。
(怖い……もしかして、ヤの付く人? 一般の人には
見えないもの)
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