憧れと現実(ある日の篠原家)

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「……30分って、長いね」  息を切らせ、ランニングマシーンから降りるなら座り込む彼女に「そうか?」と答えて、彼はミネラルウォーターを口にする。  その所作すら見惚れてしまうし、額に光るわずかな汗ですら最高の演出に見える。 「ほら、飲め」  彼が先ほどまで飲んでいたペットボトルを、気にすることなく彼女は受け取りごくごくと飲んでしまう。 「満足したか?」 「疲れたぁ」 「そんじゃ、この後のカフェは無理だな」 「え? それは大丈夫! ってか、新作のケーキが出てるって言ったじゃん!」 「疲れたんだろ? なら」 「行くの! 絶対行く! そのためにカロリー消費したんだから!」 「……この消費くらいじゃ、一口で相殺だな」 「どうしてそんな意地悪言うの!?」 「はいはい、行くなら立ってシャワー浴びてこい」  そのセリフは冷たいのに、彼女の腕をつかんで優しく立たせる彼の手はどこまでも優しい。
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