1.屋上

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「うわ、暗」  いつもの声に屋上の入り口を振り返ると、やっぱり彼がいた。 「どうしたのさ。いつにも増して灰色」  結局灰色なのか。とか、灰色にも違いがあるのか。とか色々言いたいことはあったが、そのまま飲み込んだ。  なんでもない、と彼には答え再び楽器を構える。  普段なら絶対にやらない運指ミス。不安定な音。……いつも通りに弾けない。 「ねぇ、君はどうして弾き続けてるの?」  ふと彼が尋ねた。「朝ごはん何だった?」と尋ねるような何気ない口調だった。  それは…………。  何も言えなかった。よく分からない。 「そっか。ごめん、変なこと聞いた」  そのまま彼は目を閉じ、聞く姿勢へと入っていった。  ……なぜ、弾き続けているのだろう。その答えは自分が一番求めていた。  気分を変えようと思って、割と好きな曲を弾くことにした。ゆったりとした曲。技巧も難しくない。  でも集中できていない。 「……んー」  視線を感じて目を動かせば、彼がじっとこちらを見ていた。 「……あ、ピッチずれてる。あと、中盤のテンポおかしくなるね。集中できない?」  的確なコメントだった。  しかし、どうしてこんなに音楽に詳しいのだろう。 「音楽好きがいくとこまでいくとこうなるんだよ」  ……そういうものだろうか。 「ほら、時間なくなるよ。練習しないと」  促されるままに練習をした。
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