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「うわ、暗」
いつもの声に屋上の入り口を振り返ると、やっぱり彼がいた。
「どうしたのさ。いつにも増して灰色」
結局灰色なのか。とか、灰色にも違いがあるのか。とか色々言いたいことはあったが、そのまま飲み込んだ。
なんでもない、と彼には答え再び楽器を構える。
普段なら絶対にやらない運指ミス。不安定な音。……いつも通りに弾けない。
「ねぇ、君はどうして弾き続けてるの?」
ふと彼が尋ねた。「朝ごはん何だった?」と尋ねるような何気ない口調だった。
それは…………。
何も言えなかった。よく分からない。
「そっか。ごめん、変なこと聞いた」
そのまま彼は目を閉じ、聞く姿勢へと入っていった。
……なぜ、弾き続けているのだろう。その答えは自分が一番求めていた。
気分を変えようと思って、割と好きな曲を弾くことにした。ゆったりとした曲。技巧も難しくない。
でも集中できていない。
「……んー」
視線を感じて目を動かせば、彼がじっとこちらを見ていた。
「……あ、ピッチずれてる。あと、中盤のテンポおかしくなるね。集中できない?」
的確なコメントだった。
しかし、どうしてこんなに音楽に詳しいのだろう。
「音楽好きがいくとこまでいくとこうなるんだよ」
……そういうものだろうか。
「ほら、時間なくなるよ。練習しないと」
促されるままに練習をした。
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