狗賓様

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狗賓様

「あれはなぁ……おばあちゃんが,あんたより,ずっと,ずっと小さかった頃の話だよ…… おばあちゃんのおじいちゃんはねぇ,群馬県と栃木県の境目くらいで,山から石を切り出して街の建物とか,お墓とか,そうゆう石を売ってお商売をしてたんだよ……御影石ってゆう,白と黒の模様の石で,おじいちゃんのとこの職人さん達も腕がよくて評判がよかったんだよ…… その頃の家は赤城山って山のもっと奥の……すごく山奥だったけど,お金持ちだったんだよ……東京の,ほらっ……銀座の有名な建物の玄関の石は,おじいちゃんが山から切り出した石なんだよ……ツルツルでピカピカしててねぇ…… その頃,外国のお菓子を食べてたのは,おばあちゃんの家くらいだったんだから…… フランスのお人形を持ってたのも,おばあちゃんの家だけだったよ…… 村のみんなに羨ましがられてねぇ……おばあちゃんも鼻が高かったのよぉ…… 今でもご先祖様のお墓は,群馬県のねぇ……足尾銅山の近くにあるんだよ。渡良瀬川の近くにねぇ……もう、何十年も行ってないけど……もう一回くらい行きてぇなぁ……お線香あげてお墓を綺麗にしたいねぇ……」  僕は背中をまるめて小さくなってお茶を飲みながら,ぽつり,ぽつりと,休み休み話すおばあちゃんの話を聞くのが好きだった。  時々,僕の頭を優しく撫でてくれるしわしわの手も好きだった。おばあちゃんの服からは,いつも“にほい袋”のいい匂いがした。  僕はおばあちゃんの近くに座って,いつも可愛がってもらっていた。  僕以外,誰もおばあちゃんの話を聞いていなかったけど,僕はおばあちゃんの話に夢中になっていた。  おばあちゃんはいつも眠そうにしながら,ぽつり,ぽつりと,自分が子供の頃の話を聞かせてくれた。
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