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 初耳だった。タツオも「止水(しすい)」についてサイコに話さなかったように、サイコも自家の秘術については最後まで黙っていた。左手に右足のつま先と口が加わった。ボイスパーカッションのようにサイコのふっくらと柔らかそうな唇(くちびる)からフルセットのドラムのような多彩な音が流れてくる。 (いけない!)  タツオの視界がゆっくりと静止していく。動画がそのまま鮮やかな静止画に切り変わったようだ。会場にいる進駐官たちの動きが止まって見える。タツオは背中に冷や汗をかいていた。あの決勝戦でカザンからかけられた術の恐怖を身体(からだ)がまだ覚えているのだ。  視線だけ動かして、ジョージを見た。ジョージも静止したまま恐怖に震えているようだ。「呑龍」にのまれると時間の流れが極端に遅くなる。なんの防御もできないまま、神速と化した相手に徹底的なダメージを受けることになるのだ。ジョージの左目はようやく腫(は)れが引き、跡がわからなくなったところだった。さぞ恐ろしいことだろう。
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