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「ウンデカ様は計算高く、誰よりも先を見据えているお方だ。そんな方が簡単に死ぬと思うのか? 部下に裏切られて終わるなど、間抜けな幕引きをするのか?」
ノナコンタの言葉が鼓膜を震わせる。
その度に黒斗の背中に冷たい汗が流れ、心臓の鼓動が激しくなっていく。
そう、確かに彼の終わりは呆気なかった。
黒斗が造られるよりずっと昔から神々に反抗心を抱き、失敗作であることを隠し続けてきた慎重で我慢強い彼とは思えないほど、最後は間抜けだった。
けど――
「飼い犬に手を噛まれたことすら計画のうち、ウンデカ様に反逆した大神 義之も手のひらで転がされていただけだとしたら?」
ノナコンタに笑みが戻る。
先程よりも深く、醜悪な笑みが。
「ウンデカ様は死んでいない。今も何処かで生きている。来るべき復活を待ち望んでいる」
その呟きと共に、ノナコンタの側にいた赤い蝶が黒斗の顔へ向かって勢いよく飛んできた。
反射的に顔を背けて避ける黒斗だったが、彼が再度ノナコンタの方を見た時、もう姿は無かった。
視線を外した一瞬のうちにゲートを使ったのだろう。
逃げられた悔しさから唇を噛み、デスサイズを持つ手に力を入れる。
(……ウンデカは、生きている……?)
何かが始まろうとしていたのではなかった。
終わっていなかったのだ、ウンデカの壮大な計画は。
黒斗がこの街に戻ってきたのも、ウンデカの思惑通りだったのかもしれない。
(また……橘達に危険が……?)
大切な人を喪う恐怖、危険にさらされる恐怖――それらがまた戻ってきた黒斗は立っていられなくなり、その場に膝をつく。
そんな彼を嘲るように赤い蝶は辺りを飛び回ると、そのまま夜空へ向かって姿を消すのだった。
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