伊勢遥は、もちろん猫ではない。

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  伊勢遥は、もちろん猫ではない。  だが、好奇心に殺されそうになった経験が片手で足りぬほどには、知的欲求が盛んな女子高生である。  北のビルの陰で怒号が聞こえればプリントを丸めた即席棒を片手に飛び込んでゆき、南の喫茶店でカップルの女性が突然泣き出せば、手元のノートで議事録を採り始める。 近所の空き地で猫の縄張り争いあれば、かつおぶしを賞品に用意し土俵を描き、やあやあと行司を買ってでる。  まあ大体過去一ヵ月の例でいうとこんな感じで、ちょっとかっこいい言い方をしてしまったが、とても端的に言い換えれば「何事にも首を突っ込みたがる」どこにでもいる女子高生なのだ。  そして、伊勢遥が首を突っ込んでみたいものランキング現時点首位が、目の前にある「あだしの古道具店」であった。  あだしの古道具店は、遥が通う高校と、主な通学路となっているその高校の最寄り駅を結ぶ大通りから路地を幾本も重ねた路地裏のさらに裏にある。  遥の趣味は「長所:好奇心旺盛」によくある「寄り道」で、駅までの帰り道は毎回できる限り違うルートで帰ることを目標にしている。  しかし、入学して一年半も経てばあらかたの道は通り尽くしてしまい(その中にはビルの隙間やら人の家の庭やら、「道」以外も含まれる)いささか退屈していたところ、ふと思いついたのだ。  この大通りから伸びる路地を、できる限りまっすぐ進むとどうなるだろう。  まだ青い初夏の風が、遥の笑んだ頬を撫でる。    
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