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「六年も前だからもう天国に行っちゃったはずです。どこかで寒くてひもじい思いして鳴いてたのかな……」
見合いの最終決断の日の、雑踏で彼女を見送った時と同じ感情が込み上げてきた。
むしろあの時よりも強くなっているかもしれない。
心の中でその猫を抱いて泣いている彼女を、僕が抱き締めてやりたかった。
哀しみも寂しさも、彼女の小さな世界からすべて追い払ってやりたいと思った。
鼻の先を赤くしながら黙って歩き始めた彼女の指を、そっと握りしめる。
もう単なる「好き」とは違う。
情に薄く理屈で物事を捌いてきた僕が、愛しいという理屈では割りきれない感情に飲まれていく自分を認めた時だった。
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