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最初から僕はこの役に甘んじるつもりだったじゃないか。
屈辱を噛み殺し、呑気な声と顔で彼女の腰に腕を回す。
「いつでも写真撮りますって言ってくれてるよ。僕が撮ってもいいけど」
さっきと打って変わって、彼女の身体はまるで鋼鉄のコルセットでも着けているかのように硬く感じられた。
この緊張は僕のせいだろうか?
僕は何も聞いてないよと、それが伝わることを願い抱き寄せる。
「瀧沢さんとは前に決裁書のことでやり取りしたことがあって、挨拶してたんだ」
でも、桐谷の白々しい言い訳のせいかもしれない。
騙された男を演じるのは仕事では朝飯前なのに、今はまるで巨大なものを喉に押し込むような抵抗があった。
「西野さんの具合は?」
桐谷を早く追い払おうと、持ち場を思い出させるべく話を変える。
「ああ……大丈夫。お腹が張っただけらしいけど、とりあえずあっちに戻るよ」
「じゃあ明日、会社で。彼女、お大事に」
「ああ」
桐谷も今さらながらお嬢様のご機嫌を損ねるとまずいことを思い出したのか、意外にあっさりと逃げるように去っていった。
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