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瑠珂だけでなく、今度はミツルも真っ青になった。
(順を追って説明しようって、あんなに前もって打ち合わせをしたのに……)
念入りに錬った事前の策はあっけなく泡となって消えた。しかし嘆いている場合ではない。
「あ……、あかちゃん!!?」
瑠珂が素っ頓狂な声を出す。驚きすぎて開いた口が塞がらない。
「うん、できちゃった。いま8週目」
サヤカは自慢げにまだ平らなお腹を突き出す。瑠珂の混乱と不安が更に大きくなったのは言うまでもない。
「んなこと聞いてねえ! 赤ちゃん……? 赤ちゃんって何? いい歳した大人がガキなんて作るな!」
「作るつもりはなかったのよ。でも結果的にできちゃったからしょうがないじゃない」
「しょうがないで済むか、アホ! これからどうするつもりだ!」
サヤカは瑠珂の怒りを軽く跳ね返すようにカールした睫毛をしばたかせた。
「どうするって、産むわよ」
サヤカのあっけらかんとした態度に瑠珂の怒りは爆発する。
「簡単に産むとか無責任なことを言うな!!」
「高齢出産に違いないけど、38歳の出産は今では珍しくないみたいだから大丈夫よ」
「ちがーう! お前のその無神経でバカなところに苛々するんだよ! 仕事クビになったんだろ!? どうやって育てるつもりだ!」
(あ……)
ミツルの声は出そうで出なかった。
二人の口論に圧倒されたのではなく、瑠珂の戸惑いと怒りが痛いほど分かってしまい怖じ気づいた。
「その心配はないわ。ミツルが責任とってくれるみたいだから」
急に矛先を向けられたミツルは固まった。緊張に強張るミツルの心臓は、瑠珂の鋭い視線を目の当たりにして更に縮こまる。
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