伏線回収③~「ミツルの場合」

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 瑠珂だけでなく、今度はミツルも真っ青になった。 (順を追って説明しようって、あんなに前もって打ち合わせをしたのに……)  念入りに錬った事前の策はあっけなく泡となって消えた。しかし嘆いている場合ではない。 「あ……、あかちゃん!!?」  瑠珂が素っ頓狂な声を出す。驚きすぎて開いた口が塞がらない。 「うん、できちゃった。いま8週目」  サヤカは自慢げにまだ平らなお腹を突き出す。瑠珂の混乱と不安が更に大きくなったのは言うまでもない。 「んなこと聞いてねえ! 赤ちゃん……? 赤ちゃんって何? いい歳した大人がガキなんて作るな!」 「作るつもりはなかったのよ。でも結果的にできちゃったからしょうがないじゃない」 「しょうがないで済むか、アホ! これからどうするつもりだ!」  サヤカは瑠珂の怒りを軽く跳ね返すようにカールした睫毛をしばたかせた。 「どうするって、産むわよ」  サヤカのあっけらかんとした態度に瑠珂の怒りは爆発する。 「簡単に産むとか無責任なことを言うな!!」 「高齢出産に違いないけど、38歳の出産は今では珍しくないみたいだから大丈夫よ」 「ちがーう! お前のその無神経でバカなところに苛々するんだよ! 仕事クビになったんだろ!? どうやって育てるつもりだ!」 (あ……)  ミツルの声は出そうで出なかった。  二人の口論に圧倒されたのではなく、瑠珂の戸惑いと怒りが痛いほど分かってしまい怖じ気づいた。 「その心配はないわ。ミツルが責任とってくれるみたいだから」  急に矛先を向けられたミツルは固まった。緊張に強張るミツルの心臓は、瑠珂の鋭い視線を目の当たりにして更に縮こまる。
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