第一章 ソウルトランサー

31/37
284人が本棚に入れています
本棚に追加
/194ページ
 お嬢さん呼ばわりでこめかみが痙攣したが、今はそれが事実だ。俺は背中の俺、ゴーストの姿を一度ちらりと見ておもむろに口を開いた。 「ええと。唐突だが、最初に一つ信じて欲しいことがある。それは俺がレドだってことだ。特対番号〇八三。レド・ツェイラー。こうなった経緯を説明するから、とにかく黙って聞いてくれ」  特対の仲間達に、俺はそう訴えた。 「先に良いニュースの復習から入るが、俺は電話でゴーストを捕えたと伝えたよな。今話しているこの姿がゴーストだ」  エメロがぴくりと動いたのを確認し、話を続ける。 「だが、ゴーストを捕えた直後に妙な現象が起こった。周りを妙な音と光が包んだと思ったら、俺とゴーストの身体が入れ替わっていたんだ。つまり、今話しているゴーストの身体にレド・ツェイラーの魂が入り、俺が背負っているレド・ツェイラーの身体にゴーストの魂が入っているってことだ」  まくし立てるように状況を話った俺は、仲間の顔に目をやった。  が。奴らは一様に無言で、場の空気は寒々しいほど白けたものになっていた。  一度まばたきをしたエメロが、ようやく薄い唇を開く。 「……お前、頭は大丈夫か? 良い病院を紹介してやるから、ぜひ入院してくれ」 「違うんだ、信じてくれ! そうだ、俺に関する質問に答えるから何か聞いてみてくれ!」 「馬鹿馬鹿しい。世迷言につきあっているほど、こっちは暇じゃない」 「いや、まじなんだって! 頼むから信じてくれ!」  くそ、甘かった! もっと説明の仕方を考えておくべきだった。  何となく仲間には信じてもらえるだろうと高を括っていたのがまずかった。自分が自分である事を証明するのが、いかに難しいことか。  焦った俺が口をぱくぱくと開閉していると、含み笑いが前方から漏れてきた。それは次第に音量を増し、大きな笑声に取って代わる。
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!