第一章 ソウルトランサー

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「ふふふ、はははは! なんてな。お前が取り乱した様子なんて初めて見たぞ。レド」  見ると、エメロが眼の端に浮かべた涙を指でこすっているところだった。 「……え? ……どういうことだ? ……入れ替わりの話を信じてくれるのか?」 「……ああ。まあ、信じられないのはやまやまだがな。さっき電話で、こちらでも妙なことが起こっていると伝えただろう」  キョトンとする俺に、銀縁眼鏡の同僚は告げた。そういえばそんなことを言っていたな。 「……何が起こった? まさか……」 「ああ。お前と通話する少し前に本部から妙な連絡が入った。町外れの病院に身体が入れ替わったという者から連絡があったようだと。勿論、最初は悪戯と無視したが、同じ問合せが相次いだようだ。奴らは一様に、妙な音を聞き、光が周囲を包んだ、と語っていたそうだ」  同僚の口から出てくる言葉。淡々とした口調に反して、その内容は十分な驚愕を伴って場を包み込んだ。乾ききった唇がわずかに震えるのを感じる。 「……まじか。俺達だけじゃなかったのか。あちこちで同じ現象が起きていると?」 「あちこち、というより今のところは迷宮街だけで確認されているようだ。とにかく本部は街の近くにいた俺に連絡をよこし、様子を探れと伝えてきた。だが、まさかお前にもそんなことが起きていたとはな……にわかには信じられん」  エメロは眼鏡の柄をこすりながら、首を小さく振った。横に立つマツリは瞳をいっぱいに開いて俺とエメロを交互に見ている。ややあって事態を認識したマツリは露骨に肩を落とした。
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