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しょうがなく私は、右手の袋を横宮さんに見えやすいように持ち上げた。 頭ひとつ半ほど身長差があるので、 自分の顔の前まで。 そして、一言。 「いつもの、お土産です」 途端、横宮さんの顔がカブトムシを見つけた少年のように輝く。 いそいそとじょうろを片付け、 両手にはめた軍手をはずしにかかる。 みかんの手入れは? 「みかんは大丈夫。 それより、早く中に入ろう。いつも悪いねぇ」 絶対悪いなんて思っていない。 確信してから、 私はお爺さんのようなその言い方にふき出した。 この〝お土産〟を持っていくといつもこう言うのだけれど、何度聞いても笑えてしまう。 私が笑うことについて横宮さんも特に何も言わないので、何の遠慮もせずに笑ってやる。 いつの頃からか、 このやり取りが楽しみのひとつになっていた。 *
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