記憶消失

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「私の考えについてはご理解いただけましたか?」  俺に何をしろと言っているかはわかった。だが、俺には納得できないことがあった。なぜ、自分の記憶を消す必要があったのかだ。 「冷静な判断を下すのに、大切なモノは邪魔だからです」  男は、能面のような顔をしていた。 「幼少より世界を変える薬を開発するのが夢でした。私は人生のすべてをリムーブに捧げてきた。無欲にではなく、野望を持って。必ず人類の役に立つ。救世主になれると信じていた」  俺は、スクリーンを食い入るようにみつめた。男の中にあるのは怒りなのか絶望なのか、本人であるはずの俺にはわからない。 「いまだに待てばいつか、有意義に利用されるのではないかと期待を抱いてしまう。人は執着のあるものにたいして、自分に都合の良い解釈をしたがる」  男は目を閉じた。 「すべての決断をあなたに委ねます。どうすることが、より人類のためになるのか。判断基準はそれだけにしてください。セキュリティーシステムの作動についてはマニュアルをみてください」  男はゆっくりと目を開けた。一呼吸置いて、唇が動き始める。 「最後に謝ります。どちらを選んだとしても、あなたには死が待っています。あなたの最期が安らかであることを心から願います」  そこで映像は終わった。
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