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走り出すと止まらない斜面を、一足ごとに草の匂いをまき散らしながら駆け下りる。
夏の河川敷は、緑も青も白も、水面を乱反射させる光さえも鮮やかで、そこに風が加わったら、私の心をバカみたいに躍らせる。
「いっちばーん」
先に下りきって振り向いた律紀(りつき)が、意地悪な笑顔でピースを突き出しながら見上げている。
私は前につんのめりそうになるスリルと風を切る楽しさにスピードを上げ、「早いってば」と笑いながら足を繰り出す。
「美緒(みお)、転ぶよー」
後ろから楓(かえで)の声がする。
その声に振り向いて案の定バランスを崩した私の体を、斜め後ろを歩いていた桐哉(とうや)が咄嗟に腕を掴んで支えてくれた。
「バカ?」
呆れた顔の桐哉がそう言うと、追いついた楓も「バカでしょ」と続く。
律紀は、「おせーよ、3人とも」と両手でメガホンを作って下から叫んでいる。
「まぁ、一番のバカは間違いなくあいつだけど」
桐哉が呟くように言って、私と楓はアハハと笑った。
両手を上げた瑞々しい草たちが、河川敷の斜面に風の波を連れてくる。
日よけで頭を押さえている楓のハンドタオルがパタパタとはためいて、私たちの髪は同じ方向へと揺れた。
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