黒縁眼鏡と嫌われ女子

2/12
868人が本棚に入れています
本棚に追加
/171ページ
◇ 「真理、俺さ、課長に昇進した。」 「…そう。」 都会の片隅のそこそこラグジュアリーなホテルの中階の部屋。 タバコの煙の揺らめきを断ち切る様にベッドから身を起こし、ガウンを羽織って鏡の前に座った。 「ほら、大木課長が体調不良で急に退職したじゃん?その後釜って事で急遽。 それでさ、まあ…同期でやってきたわけだけど、その…」 少し面倒くさそうに口を濁す彼に溜息を零しながらダイヤのピアスを耳に通す。 「昇進おめでとう。真田課長。 ちょうどいい機会だし、私との関係も今日で終わりにしようよ。同じ部署で上司部下がそんな関係じゃやりにくいし。」 向けた渾身の笑顔を我ながら滑稽だな、と思った。 「じゃあ、私、支度して帰るから。」 バスタブに入って熱めのシャワーを頭から浴びた。 …彼に何人も女が居たのは知っていた。 今のイベント制作会社に同期入社して、何となく意気投合して、男女の関係になって。 どこかで、『亨はそういうヤツ』と言う諦めもあったし、『私だけは違う』と言う自惚れもあった。 シャワーを止めたと同時に出た溜息。 要所、要所、裏で散々仕事をフォローしてあげて来た亨が課長か。 仕方ない。 私がフォローしまくってたなんて誰も知らないだろうし。仕事自体はフォローしたけど、巧く事が回ったのは、亨の社内に置ける人望だし。 真新しいタオルをフワリと頭から被ったら、その柔らかさに少しだけ鼻の奥がツンとした。 …三課では誰よりもイベント成功率、高いって自負があるんだけどな。 実際、リピーターの指名率もダントツだし。 まあ…でも。 上層部や先輩からは『生意気なヤツ』、同期からは『仕事してくれる都合のいい、関わりたくないヤツ』、後輩からは『口うるさいうざい先輩』 私はこういうヤツとして今まで生きてきたんだから 今更、自分を変えるなんて出来るわけがない。 仕事を貰えているだけありがたいと思わないと。 化粧を塗り直すのも、コンタクトを入れるのさえも億劫でスッピンのままメガネをかけて外へ出た。
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!