甘い贄

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    「……坊ちゃん。あの娘が今度、玻璃(はり)神さまの供物になる綾女(あやめ)さまですよ」  連れて来られた、普段は使われない離れ古屋の二階。女中の富子に背中を押され、僕はその子と対面した。  歳は僕と同じくらい、十二、三歳といったところか。  真っ白で色味の無い肌に、腰までありそうな長い黒髪。薄紅色の着物を細い臙脂の帯で締め、座敷の端で膝を崩して座っている姿はまるで。 (リアル日本人形だ……)  ベランダから差し込む色褪せた西日の中、僕に向けられた面差しは虚ろで愛想笑いすらない。  ……そんなの当たり前。  これから彼女は供物として捧げられて、玻璃さまに食われるのだから。  この子がどこから連れて来られて、どんな事情でこんなお役目になったのか僕にはわからない。  これがどうあっても覆せない事なのも知ってはいるけれど。 (やっぱり可哀相だ……。この子は自分が生贄になるってこと、わかってるのかな……?) 「さ、坊ちゃん、お傍へ……。お時間までお慰めしてあげてくださいね。それが当家の子供のお役目ですから」  富子がまた僕の背中を押し、静かに一礼して部屋を出て行く。スウッと襖の閉まる音が、肌をゾワリと撫でていったような気がした。 「……あ、の……」
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