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思いもよらぬ展開に目をパチクリさせる。綺良においては「何事だ」とでもいうようにこちらを振り返った。
二つの視線が集まったそこには、黒スーツに身を包んだ見知らぬオトコが膝をついている。
「……聞いていた以上に──お美しい」
そう言って、切れ長の目を限りなく細め彼は笑む。
綺良より遥かに物腰は柔らかいが、どことなく似ていると思うのは気のせいだろうか。
ウチの護衛にこんな男前いたっけ……首を傾げつつ口を開いた。
「ええ、どうも有り難う」
「当然のことをしたまで、礼には及びません」
スーツはオーダーメイドだろう、首下から足首まで一寸の無駄も無い。髪の毛一本すら乱れていないオールバックスタイルは綺良の次に似合っている。
エスコート上手の色オトコ、そんな第一印象だった。全然タイプじゃないけれど。
「いずれ貴女様の助けとなる時が来るでしょう──以後お見知りおきを」
「???」
まさにこの時、私の子鞄にすっと入れたのだろう。プライベートナンバーの入ったそれに気づくのはもう少し後のことだった。
手ごと私の体を引き起こすと、最後に手の甲に唇を落とした。
ジェントルマンの鏡みたいなオトコである。私を助けたことを鼻にもかけず、彼はスマートに下がっていくわけだ。
その一瞬の出来事に綺良は口も手も出すことはなかった。物凄い剣幕でこれを見守っていたのだと、後で景虎に聞いた。
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