在りし日の影

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 「お前、本当にいいのかよ!? コクらなくて」  「いーんだよ、別にっ」  ふと、耳に入って来た会話。ちら、とそちらを見れば、高校生くらいの年頃の少年2人。卒業式だったのか、手には卒業証書を入れる筒が見える。背中にはリュックサックだろうか? 肩からバッグをかけていて、同じ格好をしている。  甘酸っぱい青春時代、真っ只中のようで何より。今しか出来ない若者特有の青さを感じて自然、私の頬は弛んだ。  遠い日の夏の記憶が微かに蘇る。  私も、皐月さんに思いを告げようと、女学校帰りの彼女を待ち伏せたものだ。思いを告げる前に、隣に歩く私より年上の男性を見て、儚く恋が散ったのだが。
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