第1章 野郎な乙女

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「なっ、なるほど……」 泉流は青ざめながら片手で頭を抑える。 (もしかして……もしかすると……長月瑛は………オネェなのか!?) そう考えると、頭がズキズキと痛くなってきた。 (もしそうなら、あの女みたいな顔も、男の真田が好きだと言うのも、全て納得がいく……。だがそれでは……) 長月瑛に似たような人間をもう一人知っている。 女であるにも関わらず、男よりもかっこよくなろうと目指し、好きな人は異姓ではなく女の子。 (私か……?私に似ているのか……!?私の男バージョンだとでもいうのか!?) 冷や汗がだらだらと流れ出る。 「泉流様!?」と心配する女子達の傍らで、泉流は「よし!」と腹をくくった。 「悪いが、ここで失礼するよ。これから大事な用があってね。それじゃあ……!」 「あーん、泉流様ー!」 彼女達の残念がる声を背に、泉流はもと来た廊下を引き返した。 (これは自分の目で見て確かめる必要がある……!待っていろ、長月瑛!) 心の中でそう叫ぶと、泉流は廊下を駆け抜けて教室へと戻った。 自分の鞄から部活用のタオルを引っ張りだし、それを頭に被ってくくりつける。 そして最後にマスクと勉強用の眼鏡を装着すると、また教室から飛び出した。 クラスメイトが引いていたが、気にしなかった。 (よし、これで取り巻きの女の子達には泉流だとバレないだろう。さぁ、待っていろ長月瑛……!) 今度はこそこそと廊下を歩く。 壁際にべったりと引っ付いて歩く姿は、ふざけた変人この上ないが、泉流本人はいたって真剣で真面目だ。 (よし、完璧だ…!このまま7組まで行くぞ……!) カサカサと虫のように7組の教室まで辿り着く。 そっと扉に近付き、教室の中を覗き込んだ。 (どこだ?長月瑛……) まだ休憩時間が続いているせいか、教室の中は賑やかだった。 1組の泉流にとっては7組の生徒とはほぼ縁がなく、見渡しても見知った顔はない。 雰囲気は自分のクラスと至って変わらないが、違う学校に来たようで少し緊張した。
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