平野伊万里は今宮兄妹と出会った

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 県立瑛美(えいび)高校に入学した初日、彼女は保健室で目を覚ました。  ベッドに横になっている内に少し眠ってしまったらしい。ぼんやりとしていた意識が少しづつはっきりしてきて、ゆっくりと体を起こす。上履きを履いてシャッと白いカーテンを開けた。 「平野さん、気分はどう?」  女性保健医に声を掛けられ、コクリと頷く。 「おうちの人に迎えに来てもらった方がいいんじゃない?」  今度はふるふると首を横に振る。  平野伊万里(ひらのいまり)は対人関係に難ありな少女だった。今日の入学式でも講堂の雰囲気に呑まれ、途中で気分が悪くなった。人が大勢集まるところは苦手なのだ。出来る事なら過疎地の高校に行きたいと親に懇願したが、あえなく却下された。 「……帰ります。ありがとうございました」  ほとんど聞こえないくらい小さな声だったので、保健医が「えっ?」と聞き返したが、伊万里は室内の一角に目を奪われていた。  保健室の片隅に、教室にあるのと同じ机と椅子が一組。使い込まれたスクールバッグも無造作に置かれている。どうして?と、思ったその瞬間、保健室の扉がコンコン、とノックされた。 「センセー、もう帰っていい?」  ぞんざいな口調で言い放ち、そこに立っていたのは金髪の女子生徒。茶髪どころではない、ド金髪だった。  呆気に取られた伊万里が立ち尽くしているのを見て、金髪女子は顔を覗き込む。絶対にお近付きになりたくないタイプだ。伊万里は俯いて目を逸らした。 「もう大丈夫?」  意外にも優しい言葉を掛けられて、伊万里は驚きながらもコクコク頷く。 「桜川さん、あなたはまだ帰っちゃダメ」  保健医がそう言うと、桜川さんと呼ばれた金髪女子はえぇーと不満そうに机の方へと向かった。  伊万里はペコリと頭を下げると、逃げるように保健室を出た。人は見かけによらないとは言うが、見た目は大事。保健室で勉強してるなんて、ひょっとして手が付けられない暴れん坊なのかも。  とにかく、ああいう怖い見た目の人とは関わらないようにしよう。そう誓って、伊万里は一年一組の教室へと急いだ。
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