平野伊万里は今宮兄妹と出会った

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 開いたままの教室の扉から、そっと中を覗き込む。誰もいない事を確認すると、伊万里は教室へと足を踏み入れた。  廊下で数人の生徒とすれ違ったが、入学式どころかホームルームすら終わっているらしい。自分の机に置かれたプリント類を手早く鞄に入れ、教室を出ようとしたその時、一人の女子がバタバタと足音を立てて駆け込んできた。 「あっ!」  いきなり指を差され伊万里はビクッと肩を震わす。何か言われるかも?と緊張感が走った。伊万里にずんずん近付いて来ると、その女子はこう言った。 「入学式で倒れちゃったんだよね? 大丈夫? もう平気?」  倒れてはいないんだけど……と言いたかったが、初対面で言葉が出てこない。 「私、今宮萌果(いまみやもか)。よろしくね!」 「あ、えっと……」 「平野伊万里ちゃんでしょ? 先生が言ってた。平野さんは保健室で休んでるからって」 「えぇ……」  クラス全員にそんな風に紹介された事にショックを受けていると、萌果は伊万里の顔を覗き込んできて。 「あなた、結構美少女だよね! 言われた事ない? ちょっとお兄ちゃんには会わせたくないかも……」  何がなんだかわからず、キョトンとする伊万里に萌果はニッコリと笑顔を向ける。そういう萌果もかなりの美少女だ。 「とりあえず、伊万里って呼んでいい? 萌果の事も名前でいいから」  圧倒された伊万里は、ただ頷く事しか出来なかった。 ******  成り行き上、友達になった二人。萌果の話に相槌を打つ伊万里、というのが定番の構図だった。声も小さく他人とあまり話せない、特に男子が苦手な伊万里を時には通訳し、時にはかばうように、いつも萌果がそばにいた。 「お兄ちゃんがね、言ってたんだ。弱い者いじめは絶対するなって。弱い者は守らなきゃいけないんだって。強い人にも向かっていくのが、本当の強さなんだってね」 「ふぅん」 「萌果のお兄ちゃん、世界一かっこいいんだ」  萌果の兄、今宮律樹いまみやりつきは瑛美高校の三年生で、空手部主将。子供の頃から空手を習っており、全国にもその名を轟かせていた。『エビ高の今宮』と言えば、空手をやっていて知らない者はいない。 「世界一?」 「そう、世界一! 強くて、優しくて、頭も良くて……」  ――ブラコン。  そう思いながらも恐ろしくて口には出来ず、伊万里はふんふんと頷いていた。
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