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「ねえ、せっかくだし……これから二人でどこか行かない? 午後からは雨も止むって言うし」
まるで恋人だったときのように手を握り、笑顔を向ける。
彼もまた、満面の笑みを浮かべて私の手を握り返してくれた。
「いいね。それじゃあ、海でも見に行こうか。そういえばまだ、浦賀の渡し船に乗ったことなかったよね?」
「だったら、願いが叶うっていう神社に行ってみない? そういう願掛けって二人であまりしたことなかったし」
浦賀には、東叶神社と西叶神社という二つの対になる神社があって、その両方でお守りを買うと願いが叶うと言われているのだ。
優しさの欠片の代わりに、二人の絆を手に入れるというのも、悪くないだろう。
「そうだね。久々のデートだし、行きたいところは全部行こうか」
「あら、だったらいっそのこと、羽田空港の方へ行く?」
「おいおい。さすがに、それは今度な」
「ええ。今度、ね」
そう、私達にはまだまだ長い長い未来がある。
やりたいことは、これからいくらでも一緒にできるのだ。
私達は、人生の終着駅に向かって同じ電車に乗り始めたのだ。
道に迷ったり、乗り過ごしたり、乗り換えを間違えたり、これからも色々と戸惑いながらの旅を続けていくのだろう。
しかし、二人で一緒に同じ目的地に向かっているのなら、その全てはかけがえのない思い出になる。
そう思って、これからの人生を彼と生きていこう。
甘えるように彼の腕にしがみつき、私達は帰る家とは逆方向の電車に乗る。
雲間から射し込む光が、車内を明るく照らしてくれる。
窓を開けると、微かに潮の香りが舞い込んできた。
もう、海が近い。
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