コーヒーの苦い思い出

大人の男

　アルツハイマーの患者の初期症状として時間の概念が混乱することがあると聞いたことがある。となると、このマスターは過去と現在を混同しているのでは無いだろうか？　しかし、過去の何と混同するというのか？　自問するまでもない。父だ。父は昔、この店に来ていたのだ。道理で既視感があるはずだ。この喫茶店はあの日、父と一緒に入った店だったのだから。
　しかしそれよりも、先ほどマスターが言った言葉が気になった。息子がいつの間にか大人になっていた、と言った、その息子とは当然私のことだろう。しかし、大人になっていたとはどういう事だ？　そして、それはいつのことだ？　その答えも決まっている。マスターの言う最後に来た日、という言葉を信じるなら、私と父が店に来た次の日か、もしくはさらにその次の日しかあり得ない。
　そして、それが意味することは……。