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その場に当事者がいるのも気恥ずかしいものだ。僕はポケットにスマートフォンを忍ばせて、そっと店の外に出た。
一コール、二コール……四コール目で、スピーカーから聞きなれた声がした。
「どうしたの? 何かあったの、勇人」
以前の僕だったら、こんな風に人と飲んでいる途中で電話をかけることなんてあり得なかった。少しだけ相手の立場を考えて、少しだけそれに寄り添わせるだけ。たったこれだけのことを怠っていた僕が、いかにわがままだったのかを考えると恥ずかしい。
彼女だって元々束縛を好む女じゃないのだ。あまりにも僕がずぼらなせいで、美央にそうさせてしまっていたのだと気付けたのも、記憶をなくしたおかげかもしれない。
「ごめん、小笠原に結婚のことを伝えたら、なんだか凄いことになっちゃって。今日はちょっと、すぐには帰れそうにないよ」
向こう側から、美央の明るい笑い声が聞こえてくる。
「うん、電話してくれてありがとう。明日も仕事なんだから、気をつけて帰ってきてよね」
「わかった。……好きだよ、美央」
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