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◇
どの位の時間そうしていたのかはわからない。
長い長い沈黙の後、先に口を開いたのは彼女だった。
「…もう終電、行っちゃったよね、きっと。」
腕時計に目を落とし、小さく「そうだね」と呟くと腕に力を入れ直す。
「…始発列車、一緒に待とう?」
もっとずっと美咲と一緒に居たい、それだけ。
「…うん。」
美咲は俯いたまま少し微笑んだ。
二人で一枚のブランケットにくるまっている事以外、その前と変わらない空間。
ぽつり、ぽつりと他愛も無い話をして、二人で微笑み合う。
最初、美咲に惹かれる気持を『木の魔法だ』なんて思ったっけ。
それならそれで、魔法が解けなければいい。
この夜が、ずっと続けばいい。
今となっては心底そう思ってる
そうすれば、ずっとこうやって美咲を抱きしめたままでいられるんだから。
だけど
俺の願いとは裏腹に暗闇一色だった空は少しずつオレンジに色づいてくる。
どこからともなく聞こえてくる車のクラクションの音
「朝だね…。」
「…うん。」
朝もやに包まれた街の方から電車の警笛が聞こえて来た。
「電車、走り始めたみたいだね…」
”まだ、離れたくない。でも、帰らなきゃ。”
「亮太…さん。」
不意に顔を上げて俺の顔を見た美咲の瞳が潤んでる。
…この丘をおりたら、それぞれ別の…元の自分の世界に戻って行く。
ザアアア…
風に煽られ、木の葉が少し強く揺れた。
どうか、どうか、今だけ。
夢を見させて…
ザアア…
また、木の葉が揺れる
次の瞬間
互いの唇が重なった。
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