その女、源麗子

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飲み過ぎたつもりは無かったが、悪酔いはしているように思う。 それもそうだろう。仕事の付き合いで行った飲み会が、楽しい酒席だったとはお世辞にも言えない。 駅のホームに降りたその足に若干のふらつきを覚えながらも、俺は改札へと向かった。 平日のためだろうか。乗客の数もまばらだった。 終電というものに乗ったのはこれが始めてで、それが少ない人数だったのか、多い人数だったのかは分からない。 平日に隣街へ飲みに出ることなんて過去に一度も無かったのだから。 本社のある隣街から電車に揺られて約一時間。 駅の外へ出て腕時計を確認した時には、二十四時を過ぎていた。 こんな夜更けに運行してくれる親切なバス会社なんて、この街には存在しない。 もっとも、そんな会社があったとしても採算はとれないだろう。 若者の数より高齢者の方が多いのだから。 夜遊びをするお年寄りの数も、そう多いとは思えない。 当然、若者だろうが、お年寄りだろうが自宅へはタクシーに乗って帰ることになる。 けれど、今回ばかりはそうはいかなかった。 なにせ今は主張中なのだ。 馬鹿げた話だと思う。 勤務先である支店、妻が待つ自宅、いずれもこの街の中にある。 それなのに自宅へは帰らず、明日の朝、勤務先の支店へ出社することもないのだ。 ここからタクシーに乗り、また一時間半ほど揺られて、今度は更に三つ隣の街へと向かう。 街というよりは町の方が相応しいだろう。 駅も線路も無い小さな町。その町に出張所があり、今はそこで寝食をしていた。 到着が二時を少し過ぎる頃だろうとは酔った頭でも容易に計算ができる。 なんともやるせない気持ちを抱え、ふらついた足取りで駅前にあるタクシー乗り場へと向かった。
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