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品川から京浜急行の快特に乗って四十三分。 電車から降りると、雛鳥の鳴き声が出迎える。 見上げると、ホームの天井部に組まれた鉄骨の溝にツバメの巣があった。 真下には黄色いポールが立っている。張られている紙を読むと「注意をお願いします」と書かれていた。 「あ……」 目の前で、ぼとりとフンが落ちてくる。 親鳥が戻ってきたようだ。雛鳥たちの「お腹空いた」がいっそう大きく構内に響く。 ここからだと何人兄弟かはっきり見えないが、ツバメは子供たちが全て平等に育つように餌をやるのだと聞いたことがある。 そして巣立ちの日まで見守るのだ。 人間と違って――。 どこか遠くを眺め、甲田太一(こうだ たいち)は手にしていたスマートフォンに視線を戻した。 時刻は午前十一時。待ち合わせは横須賀中央駅に午前十時。つまり一時間前である。 もうホームには待つ影がない。それでいい。わざと遅刻をしたのだから。 いや、本当はくるつもりもなかった。――昨日までは。
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