かくて記憶ハッカーは戦えり

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(ふ~ん、あの毒舌の大統領と総理大臣が来るのか。それで今日は、我が星降市で警官やパトカーを多く見掛けたんだな)  国際的な行事とは無縁なので、そんなノホホンとした感想を心で漏らす。  その瞬間、ある視線が僕の心を捉えた。 「なッ……!?」  驚愕のあまり声を失った。それほどに衝撃的だったのだ。  我知らず冷や汗が頬を伝い、喉が悲鳴をあげたように渇いていた。 (……どうしたらいいんだ……)  そのときの僕は、巨大なダムの亀裂を最初に発見したような、言い知れぬ焦燥感に襲われていた。 「放課後に呼びだすシチュエーションの意味、心しているのだろうな平凡君?」 「僕の名前は小平 凡太(こだいら ぼんた)です。アオネ先輩いい加減に憶えてください」  いつも通りの会話。毎度おなじみのボケツッコミだった。  一体どれほど回数を重ねたことか。  まったく飽きないどころか、会話を重ねるごとに絶妙の間になっている。 「生意気お言いでないよ。おびえたウサギのような顔で、このアオネ様に意見するつもりかえ」  三つ編みに眼鏡っ娘、おまけに傲岸不遜で唯我独尊──校内で史上最高の図書委員長と謳われるアオネ先輩が、図書室に響き渡る高らかな哄笑を漏らした。 「変に時代がかった言葉は止してください。それよりも相談があるのですが、ちょっと先輩の助力を得たいのですが」 「地底人か爬虫類型宇宙人の捕獲なら、相談に乗るのもヤブサカでないぞ」 「どこの木曜スペシャルですか。違います。大事な話なんです」 「どうやら、童貞喪失よりも大事な話のようだな」  アオネ先輩が人差し指で眼鏡を押しながら、『高等魔術の教理と祭儀』をそっと閉じた。  どこの魔術師だよ、と心のなかでハリセンを叩いた。 「こんなこと、アオネ先輩しか信じてくれないと思って……」
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