10.Last Snow 

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秋月の庭に真っ白な雪が雪が降り続く。 全てを覆い尽くして飲み込んでしまうように……。 今日、この現世の命が終える(ついえる)。 その終わりがとても穏やかな時間を生み出していく。 不安そうな笑みを浮かべ続ける一族のものを集めて、 広間でひと時の眠りに誘う。 にこやかに笑みを携えて微笑みながらも、 私の両の手は自らの掌に軽く刃を突き立てる。 傷口からツツツ……っと滴り落ちる雫が、 霧散して広間に広がっていく。 その眠りへの誘いを導くかのように火綾の巫女の舞が、 聖鈴の音が幻想的にその空間を包み込みさらなる眠りへと誘う。 お休みなさい。 私の大切な……この地の宝たちよ……。 汝らに辛い思いはさせぬ。 この一族の行く末、 二人で光りの元に誘ってみせようぞ。 この身と引き換えにしてでも。 一人また一人。 術の力に抵抗することが叶わず ゆっくりと眠りについていく。 『姫様……火綾の巫女、どうか御無事で……』 『どうして……このような』 『私たちは何処までもお二人と共にありたかったのに』 紡がれた言の葉は、私と桜瑛を包む力になる。 紡がれ続ける言の葉の綾糸を紡ぎながら……。 私たち二人以外、 全ての一族のものが眠りについた屋敷内。 物音一つ立たず静まり返ったその場所を、 桜瑛と二人歩いてまわる。 屋敷を守る霊石の力を桜瑛と二人、 祈りを重ね合わせて強化していく。 この後、互いの力がぶつかり合っても 破れることがないように。 思いを込めて。 反物を織っていくように……。 桜瑛と互いに縦の糸と横の糸を織りなして 紡ぎあげる秋月の結界。 織り成し続けた結界は屋敷内全てを包み込み、 焔龍の力に満たされていく。 顔を見合わせて秋月の庭園前、 二人並んで宝さまが来る瞬間を待ち続ける。 瞳を閉じると私たちが織り成した結界の他にも 徳力の結界が幾重にも張り巡らされ、 宝さまの……秘技が生み出す特殊結界も読み取れる。
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