10.Last Snow 

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「桜瑛」 私の声に桜瑛もまた、 私を守る形で一歩前に歩み出る。 「月姫……ご命令を」 小さく指示願うように紡がれる言葉。 その言葉にもう桜瑛の震えは感じられない。 真っ直ぐに宝さまと親友の姿を見据えている。 「火綾の巫女に命ずる。  綾織ましょう。  私たちの未来を……」 「綾織ましょう。  姫様の描かれる慈愛なる未来を……」 互いに心を通い合わせ絆の契りを深く交わした私たちを、 邪魔するカムナは入りこむ隙もない。 互いの指先から紡がれる朱瑛召喚文字。 詠唱を唱え桜瑛の聖鈴に、 私の神聖な血を一滴。 聖鈴はチリリンっと僅かな音を立てて 私の持ち血液特得の甘い香りが周囲を包みこむ。 「「焔龍・朱瑛……来たれ。 秋月の未来を織り成すために……」」 同時に天に声を轟かせた直後、   目の前に炎が迸りその焔を桜瑛を ゆっくりと取り囲んで桜瑛の体内に一瞬のうちに吸い込まれた。 その途端、桜瑛の肌は褐色をおび 朱瑛が降り立った証となる刻印が紅い龍族の文字で刻まれる。 その肩には鳳凰朱雀をのせて。 降臨した朱瑛をその身に宿した桜瑛の姿に思わず魅了される。 「朱瑛。我一族に光の御世を……」 そう紡ぐと肩の朱雀が朱瑛の武器でもある 剣へと姿を変幻させる。 二人、向かいあいながら切っ先をむける。 ゆっくりと間合いを測りながら 互いに譲る気配もなく一歩、また一歩と擦り足で移動しながら その気は乱れることはない。 長い沈黙が流れる。 互いの呼吸音がその空間に響き合うように。 そして次の瞬間、流れるような光が空間を切り裂く。 互いの刀が重なるあう音が空間に冷たく響き渡る。 その光の先を視線で捕えることはもう出来ない。 光りの如く流れ続けるその光を後から 遅れて必死に追いつづける時間。 幾度も切っ先が互いの肌を切り裂いて、 血が滴となって空間に飛び散るのを感じながらも、 ただ二人を見届けることしか出来ずに……。
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