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『……姫様……。
どうか悲しまないで。
私は幸せよ。
今生でも貴方に出逢えて……』
祈りながら混在する桜瑛の意識に
シンクロしていくと溢れることなく
流れ込んでくる桜瑛の愛情。
凍ざした(とざした)ままの心では
決して気が付くことのなかった
桜瑛の深い温もり……。
二人、心を通わせた中、
宝さまの神剣が悲しげに桜瑛に向いていく。
その剣をも愛しそうに見つめる桜瑛。
桜瑛の意識越しに伝わる宝さまの表情は
一つ一つ……ご自身の大切なものを犠牲にして迎えられたのを
物語(ものがたる)悲しみ深き双眸を伏せて。
次の瞬間、その切っ先は桜瑛の体を貫いた。
桜瑛の体内に吸い込まれるように入っていった
その剣は……妖し(あやかし)にも似て不思議な光を放つ。
ゆっくりと空を力なく舞うその体を
抱きとめようと駆けだした私の元に美しい光の線が走る。
その屋敷に来て以来一度たりとも話されず、
笑顔を向けることもなく……凍結されつづけた表情を
浮かべていた宝さまの口元が微かに笑みを浮かべた途端、
その心臓に鈍痛が走った。
さようなら……私が愛した愛しい貴方。
貴方たちの未来に祝福の祈りを。
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