第1章

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「ただいまー。由亜ー、ご飯どこ行きたい?」 玄関のドアを閉めるなり、リビングに居るであろう愛娘に声をかけながら、そちらへ向かう。 今日は妻が仕事で遅くなるというので、二人で外食をしようと娘と約束していた。 「由亜ー?準備できて……」 リビングに入ったところで、体が固まる。 状況を理解するまでには暫く時間がかかった。 いつもと変わらない生活感のあるリビングのソファーに座る、……ガスマスクを被った娘…? 「ゆ、由亜、だよな?……それ、どうしたんだ…?」 娘は黙ったままテーブルの上に置かれていた小さなホワイトボードに、何かを書き始めた。 『パパ、タバコ吸うから。毒。』 毒!?娘との食事を楽しみに帰ってきた僕にいきなり突きつけられた言葉。 娘に嫌いと言われたことさえない僕にとっては、丸みのある可愛らしい文字も切れ味鋭く心に突き刺さった。 「……パパ、晴香の前ではタバコ吸わないだろ?」 タバコの煙がタバコを吸わない人へも害があることは知っている。娘や妻が眠った後や出掛けている日にリビングで吸うことはあっても、二人の目の前で吸ったことは一度もない。 害とまで言われる理由はないはずだと気をとり直す。 しかし、ガスマスクをつけた頭は横に振られ、今度は学校の鞄から1枚のプリントを取り出して僕に手渡してきた。
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