1年後

37/44
1358人が本棚に入れています
本棚に追加
/403ページ
その手紙は、最後はそう締めくくられていた。 最後の一枚の便箋には、いくつも水滴でインクが滲んだ跡があり……。 彼が泣きながらこれを書いたのだということが、容易に想像できた。 「…………っ」 読んでいる途中で何度も視界が涙でぼやけたけど、私はそれを拭って最後まで一気にそれを読み切った。 今日まで知りえなかった、真実。 ……そして、彼の想い。 10年前から繋がっていた、彼との絆。 あの日、手術が終わってまだぼんやりする意識の中で、お母さんの言葉が妙に頭に響いたことを覚えている。 『あの鉄棒の前に大きな桜の木があるやろ? あんたが落ちたあの一角だけは、あの木の花びらがいっぱい積もってたから、それが少しクッションになったんやって。傷は残るかも知らんけど、脳に異常がなかったのはあの桜の木のおかげやね』 ───そして思い出した、その時の風景。 一面ピンク色の、花びらの絨毯。 あそこに立っていたあの桜の木が、私の命の恩人なんだ……。  
/403ページ

最初のコメントを投稿しよう!