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その手紙は、最後はそう締めくくられていた。
最後の一枚の便箋には、いくつも水滴でインクが滲んだ跡があり……。
彼が泣きながらこれを書いたのだということが、容易に想像できた。
「…………っ」
読んでいる途中で何度も視界が涙でぼやけたけど、私はそれを拭って最後まで一気にそれを読み切った。
今日まで知りえなかった、真実。
……そして、彼の想い。
10年前から繋がっていた、彼との絆。
あの日、手術が終わってまだぼんやりする意識の中で、お母さんの言葉が妙に頭に響いたことを覚えている。
『あの鉄棒の前に大きな桜の木があるやろ? あんたが落ちたあの一角だけは、あの木の花びらがいっぱい積もってたから、それが少しクッションになったんやって。傷は残るかも知らんけど、脳に異常がなかったのはあの桜の木のおかげやね』
───そして思い出した、その時の風景。
一面ピンク色の、花びらの絨毯。
あそこに立っていたあの桜の木が、私の命の恩人なんだ……。
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