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「だから離婚はできないの…」
「成美さん…」
「優斗くんがいてくれるから、私はこんな狭い鳥籠の中で生きていられるのよ?
ここは狭くて窮屈だけど、ここから出てもきっと自由に飛ぶことなんて出来ない…」
「…なにそれ…」
成美は気付いていた。
結婚して十数年間、繰り返してきた事はそう簡単に変えられない。
コーヒーやタバコに依存するのと同じ、ないと不安になる。
夫を殺してやりたいと憎む事ですらも、生きるための動力になっていたのだ。
「何かが欠ける事で、バランスを崩してあなたを失うのは嫌なの。怖いのよ、壊れるのが。
だったらこのままでいたい。同じ事を繰り返すだけの毎日は退屈だけど、繰り返す事で安心できるものもあるわ?
人ってそう言うものじゃない?」
「分かんないよ、そんなの…
俺はただ…成美さんの全部が欲しいんだ」
「優斗くん…」
「嫌だよ俺…
そんな生活に何の意味があるの?自由になりたくないの?
一番好きな人と一緒にいればいいじゃない?
どうしてそれじゃダメなの?
ねぇ…教えてよ?成美さん」
純粋な涙は美しい。
成美の肩に顔を埋め、泣きながら縋る優斗の背中を宥めるように撫で、震える唇に甘く口付けた。
「優斗くん?…お願い、泣かないで?」
「嫌だよ…分かんないよ俺、納得いかないよ…」
彼は最後まで首を縦に振らなかった。
それでも成美から離れようとはしなかった。
納得はできなくても、自分が必要とされている事や、成美に愛されている事は痛いくらい分かっていたし
“そこから出られない彼女を想い続ける”という行為は、いつの間にか彼のルーティンワークになっていたのだ。
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