症状四、それは風邪みたいなものでして。

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でも、確かに今日の颯真さんはちょっとだけいつもと違っていた。 上着を忘れて会いに来てくれたし、柾の事で怒ってくれたし。 いつも優しい笑顔にときめくんだけど、でも今日は、ピリピリした空気の中で見せるセクシーな横顔とか、真摯な顔とか、全てドキドキした。 「わかば」 「はい」 「上がってくるエレベーターに、誰も乗っていなかったら、君の初めてを貰う」 「は、初めて!?」 「恋愛経験が無いみたいだから、経験しとこっか」 逃げられないように、手を掴まれる。 お酒を飲んだ私も颯真さんも、ほんのりと暖かい。 階数を示す光が、どんどん上がってくる。 18階の此処まで、一階も止まっていない。 上の階に行く方か、此処で降りる方がいてくれたら――。 そんな望みを持ちながらも、少しだけ期待もしてしまう。 颯真さんになら初めてを奪われて良い。 「あのね、一つだけおさらいしとくよ」
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