背中あわせ

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背中あわせ

 止まれ、と書いた逆三角形の道路標識が立っている角を曲がると自宅マンションが見えてきた。駅から続くにぎやかな通りから少し入ったところだ。  隣家と境目に低いブロック塀があって、敷地に雑草が茂っているのが夜目にもわかる。  一階の自室に目をやると、ベランダに赤い火がぽつんとともっていた。  季節はずれの蛍みたいだ。そう思った。明るくともったところで、この寒空に相手などみつかるはずもないのに。  赤い火はすいっと持ち上がると、家の内部からのあかりに逆光になった人影の口元にとまる。  あいつが来てる。  喜んでいいのか、悲しんでいいのかよくわからなかった。とりあえず、あいつまだ生きていたんだな、と思った。  胸のすみに置きっぱなしになっていた荷物が一つ、急にどかされたような気持ちだった。  駅から続く商店街には「花みずき」という喫茶店がある。俺の母親が祖父から引き継いだ小さな店だ。ビルの隙間にある入り口は自動ドアの幅くらいしかなくて、しかし奥はやたらと深い。タテに細長い店だ。外の陽は入らないが、静かで落ち着いた雰囲気がある。     
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